わたしのみだし

見出しだけでも読んでください

それ誤解です!実は誰でもOK

先日、速読の話になった。個人的には、速読と読書は質的に異なるという直感がある。水の中みたいに、文にも抵抗がある。つまり密度があって、それは視線に絡みつく。速い泳ぎ方はあるだろう。しかしプールに入らずプールサイドを走るのは、いくら速くても泳ぐとは言わない。自由形でも反則だ。文字の中に飛び込むのが読書である。こう言って自分の遅読っぷりを正当化している。

泊まったゲストハウス(兼純喫茶)にスタッフおすすめの本が置いてある。なんとなく手に取った『モーメント・アーケード』は、100ページ程度の薄いペーパーバック。しかも中を開くと半分はハングルで書かれている。韓国の短編文学の訳書で、翻訳家志望のために原文も付してあるという、なかなかコアな本である。のっけからワクワクする設定で、いかにも面白そうだ。こじんまりとしたこの本紹介コーナーは、女性のスタッフさんいわく姉妹店の本屋の宣伝も兼ねているのだそうだ。

昼飯に蕎麦を食べた後、本屋に寄ってみる。入り口が奥まっていて目立たず、一度通り過ぎてしまった。引き返して入ると、8畳くらいしかない。うん、いい本屋だ。入って左手に、近所のブッククラブや(たぶん)本好きのおっさんとかがセレクトした本が置かれている。それぞれの個性が見える。他にも、絶妙に知らない面白そうな本がたくさんある。痒いところを掻かれている気分。密度の高い本屋に絡め取られていく。

じっくりと見て、結局『モーメント・アーケード』を買う。何かの縁である。薄さの割に…と思わないではない値段だが、読んだあとは韓国語の勉強をしている母に贈れば、遅い母の日のプレゼントに代えられるから安いものだと思った。荷物を増やしたくないのもある。そういえばさっきの蕎麦も味や量の割に高かったが、こちらは特に救いがない。

『モーメント・アーケード』をおすすめコーナーに置いたのは、まさにゲストハウスでさっき話したスタッフさんだった。置いた甲斐があった!と喜んでいて、僕も嬉しい。珈琲一杯注文して、読み始める。読み終わる。飲み終わる。ずいぶん短かった。しかし面白かった。本の真ん中にある訳者解説で、2019年の第四回韓国科学文学賞の中短編部門で(ほぼ異論なしの)大賞に選ばれた作品だとわかった。納得だ。

第10回日経「星新一賞」なるSF短編文学賞が作品の応募受付を開始したと、先日友達が教えてくれた。かつて僕が星新一を好んで読んでいたと知っていたからだ。短編か。実は、星新一ばかり読んでいた小学生の頃に短編を書いていたことがある。でもどこに出すでもなかったし、多くは星新一のパクリだった気がするけれど、ノートをいっぱいにしていた。それが今では短いブログを書くのがやっとの筆不精だ(あの熱意とノートはどこにいったんだろう?)。

一応、応募要件を読んでみる。一応ね。対象者に制限はない。字数は一万字以内。そうか。一万字ね。一万字なら頑張れば書けそうな気がしてくる(本当に?なぜ?)。僕は短編を書いたことがあるのだし(小学生の時だよ?思い直して?)。こういうわけで、素晴らしいアイデアがなぜか突然湧いて出てくるなら書き起こしてやらんでもない、という不遜な態度を数日前からこっそり隠し持っていたのだけど……。深く反省いたします。短編って、すげーわ。

誰でも応募可能な、第10回日経「星新一賞」の詳細はこちらから。 https://hoshiaward.nikkei.co.jp