わたしのみだし

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制限された「最期の別れ」

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家族で車に乗って遠くのお寺に行った。険しい山と沢山の石仏があることで有名だ。20分くらい山の中の階段を登る。祖母も、僕の言う「あとちょっと」を何度も信じて。

300円払って本堂に続く道に入る。暗い洞窟を進むと、途中に「悩みを捨てる地獄箱」がある。『削ぎ落とし あなたの苦しみ・悩み事・嫌なことを紙に書いて地獄箱に入れてください。』という立て札もある。母と僕は何を書こうかと考えたが、祖母はすぐに「無いなぁ。それに、なんか余計なもんまで削ぎ落とされそうな気がする」と言って立ち去った。母ともども、にわかに怖い感じがしてきて結局何も書かなかった。祖母は強し。

住職の女性がルールに厳しい。「傘はこちらに入れてください!」「日本語わかりますか?傘は、こちらに、入れてください!」「写真は撮らないでください!入ったところに撮影禁止って書いてたでしょう?」と、有無を言わさぬ剣幕で注意に走り回っている。地獄箱の底にはきっと、「傘を傘立てに入れぬ者」「注意を聞かぬ者」「勝手に写真を撮る者」と書かれた紙が入っているに違いないと噂した。

「あんな風に注意されたら、この寺のこと嫌いになってたね」と母が言う。その時は迷わず寺の名前を地獄箱に入れていただろう。そして山門を抜けた瞬間、寺は爆発していただろう。