朝。汗をかいている。目を開けた直後は結構スッキリしたかなと思ったが、だんだん頭が痛むようになった。布団のとなりでは加湿器が黙々と空間を白へと変えようとしている。二度寝をしたらしくあまり記憶が定かではないが、友人が貸してくれた体温計に37.2度と表示されたりシャワーを浴びてシャツと背中の間にタオルをはさんだり友人がくれた葛根湯を飲んだり友人が作ってくれた生姜豆乳スープをすすったりしたはずだ。その朝ご飯だと思っていたものを食べ終わると時計は11時30分を指していた。18時半にマッチングアプリの人と待ち合わせて食事をすることになっているが、キャンセルした方がいいだろうかと思ってポリシーを調べると、キャンセル料が1人5000円だと分かった。キャンセルはできない。全然そんな高級店ではないのに。全力で休んで回復しなければ。厚着をして布団に潜り込む。
次に目を覚ますと友人は出社してもういなかった。加湿器がさっきより少しだけ僕に近づいているように感じる。友人が水を足してくれたか何かで動いたのだろう。ありがたい痕跡だ。眠る前にカーテンを閉めてくれた友人に「お寺さんが言う『ありがたい』くらいありがたいと思っているよ」と言った記憶がある。体温は36.8度まで下がった。もう少し寝る。3時くらいに辛ラーメンを作る。風邪を引いた時は辛ラーメンに限ると韓国で言われている、かどうかは知らない。シンクには昨晩と今朝飲み食いした皿が洗われずに積まれている。沸いた鍋に麺とかやくとスープとソーセージを放り込む。鼻の頭に汗をかきながら食べ終えて、丼をシンクに加える。寝る。
完全ではないがそれなりに回復した。全力で休んでみるものだな。服を着替えて顔を洗い、荷物をまとめ、皿を洗えず申し訳ないと思いながら友人の家を出る。15分ほど早く着くはずだったが電車の遅延があり集合時間ちょうどに合流した。僕が明るい緑色の服を着て明るい緑色のバックパックを背負っているからすぐに見つけてもらえた。写真で見るよりずっときれいな人、絵に描いたような二重まぶただ。身長150cmってこんなに小さいのか。第一印象はこんな感じ。予約していたお店まで風の中を歩く。相手は緊張しているようだ。なにもないところで躓くように会話のラリーが途切れそうになるのをなんとか繋ぎ止めていく。
サラダとパスタとピザを注文する。話は次々終わって次々始まるので、もはや「話変わるけど」なんて言わない。両親の話、旅行の話、学校の話、映画の話、初恋の話、刺繍の話、兄弟の話、部活の話、瞑想の話。今思えばどれももっと深められた気がするが、どうやら僕も緊張していたらしい。僕が映画サークルで作ったコメディ映画のあらすじで今日一番の笑顔が見れた。パスタもピザも美味しかったが、一番美味しかったのはドレッシングだった。キャンセル料には遠く及ばない金額を支払って店を出る。駅までの道をゆっくり歩く。交差点の信号待ちでLINEの交換を持ちかけられる。交差点はよくきっかけになる。これから会うことになっている人たちともLINEを交換していくのなら、近い内に苦しい行為をすることになるのだろう、と不安になる。早く大阪の人に会いたいと思って、そのようにLINEする。長く待ったバスに乗って兄の家に着く。甥っ子はおそらく明日退院できるとのことだ。