わたしのみだし

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食事で深まる地域住民の交流

ロンドンでは兄の友だちの家に泊めてもらった。官僚で、税金で、留学中のひと。楽しそ〜と思うが、留学のあいだ2年間は日本に帰れないらしい。日本だけでなく、旅行もイギリスに近いフランス・オランダ・ドイツくらいにしか行けず、SNSに楽しそうな投稿をするのも控えるように言われているらしい。そういう特別なパスポート。緑色の。

兄の友だちは一般には僕の友だちではないので、この人も兄の結婚式で一度会ったことがあるばかりだった。大学時代に東洋哲学を専攻していたといい、僕も哲学が好きだと知ると目を少し輝かせ、話をして、最後にはわりと仲良くなれたと思う。

ある日曜日、同じくロンドンに赴任中の彼の上司が家に来るから、なにか料理を振る舞ってくれと言われる。上司は他に7人くらい引き連れて、深夜はクラブに行くそうだ。しかし彼と直接面識があるのは上司だけで、あとの7人は全く知らない人たちだと言う。そんなことある?

街に一ヶ所だけの日本食材店で柿が手に入ったので、永田さんに学んだ柿と生ハムのサラダを作った。パルミジャーノレッジャーノの代わりにサワークリームを絡めたが、これがまたうまい。他には無難なカプレーゼや、適当な肉と野菜のトルティーヤ、アボカドやトマトなんかを適当に切って醤油で和えたものなどを出した。

僕がロンドンにいる間ずっと食べていたブルーチーズを乗せたクラッカーも、小さなタパスとしては丁度よく場におさまるはずだったが、もうちょっと作った感のあるものを出してくれと言われてボツになった。自分は全く料理しないのに、妙にこだわりのある人だ。

ほかの7人というのはロンドンに住む日本人留学生や、日本人のハーフ、日本語を勉強しているイギリス人や中国人など、あらゆる日本のグラデーションを集めた構成だった。ロンドンには日本人コミュニティがいくつもあって、その繋がりで知り合った人たちらしい。みんな楽しい人たちだったな。料理はとても喜んでもらえた。

東京に帰って米を炊いた。炊飯器がないので、小鍋に米と水を入れて火に掛ける。炊飯器がないのでと言いつつ、鍋で炊いた方が絶対にうまいと思っているから、今後も炊飯器を買うつもりはさらさらない。

炊き方は簡単で、適当に米をいれて平らにならし、人差し指の第一関節まで水にひたす。強火にかけて、吹きこぼれそうになったら弱火にする。パチパチと音がしたらおこげの合図。ここで火を止める。しかしいまの部屋のコンロが優秀で、焦げ付きそうになったら勝手に火を止めてくれる。だからただ待てばいい。

これは昔こどもキャンプで学んだ方法だがとても有用で、今だに母は「キャンプで米を炊くのが上手だったよね」となつかしがる。本当はあの頃よりずっと長くなっている指の分だけ水を少なめにするはずが、ずいぶん久しぶりだから忘れていた。米はぐちゃぐちゃに湿っていた。